高橋三千綱先生について
8月17日に作家の高橋三千綱先生が亡くなられた。
第79回芥川賞を受賞した「九月の空」からこの方を知った。
中学生のころだろうか、角川文庫のなんとなくおしゃれな感じの表紙で買ってみたのだが、内容も当然ながら非常に面白く、たびたび読み返した。
主人公小林勇と剣道の関わり合い、そしてその周りの友人たちがまさに青春そのものの生き生きとした筆致でつづられていく。
ヒロインの松山さんもはかなげかつひたむきな感じが可愛らしく、こんな彼女がいたら自分だったら即付き合ってるなと思ったものである。
あとは何といってもライバルである石渡君の存在。
さわやかで、かつ恐ろしく強い。勇はもちろん、自分から見ても非の打ち所がなく、まぶしいような存在なのだが、そんな彼も悩みを抱えている、でもその悩みに対してもくったくなく受け入れ、ぶつかっていく。
青春を書かせたら私の中ではこの方が一番である。
『不良と呼ばれた夏』は亡くなった母も読んでいて、面白かったと言っていたのを覚え
ている。
『真夜中のボクサー』は放浪する元ボクサーの物語だが、最後のあたりの静かな日々が自分にとっても心地よく、それを振り切って流氷を見に行くために出ていくカッコよさにあこがれた。彼は流氷を見に行った後、アルバイト先のガソリンスタンド(だったかな?)に戻ったのだろうか。
できれば戻って、そこの一人娘と添い遂げて。。みたいな想像を勝手にしていた。でも、彼のことだからそういった温もりからは背を向けるのだろう。
エッセイもこの人の「男らしさ」というのが伝わり、とてもかっこよかった。
晩年、家族で雑貨店のようなものを経営していて、店番をしていたような記述もあったので、会いに行けるのであれば行ってみたいと思っていたが、結局会うことなくあの世に旅立たれてしまった。
度重なる引っ越しで先生の本は全く無くなってしまったが、また揃えてみようかなと思っている。